「情熱」と「志」

今年のNHK大河ドラマは、「日本資本主義の父」といわれる、渋沢栄一が主人公の「青天を衝け」です。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、放送日程が大幅に遅れ、先月からのスタートとなりました。渋沢栄一は、私が千代田支部の評議員を拝命している東京商工会議所(当時は東京商法会議所)の初代会頭ということもあり、興味深く楽しみに見ています。

渋沢栄一は、明治維新後に多くの企業の設立や運営に関わり、医療・研究事業・学校の社会福祉の支援にも尽力したことで知られる人物です。現在のドラマの展開は、それ以前、尊攘志士から幕臣となる栄一を描いています。歴史好きの人達には人気の高い時代ですが、昔の本では「明治維新」ではなく、「瓦解」と書かれています。

「維新」と「瓦解」では意味が違います。別の角度から明治維新を見れば、その意味が理解できます。江戸幕府は、薩長連合による戊辰戦争によって滅ぼされました。新しい国創りの理想に燃えた、幕末の志士たちの活躍が徳川幕府を倒した。しかし、これとは別の側面があります。この頃の幕府の財政は既に破綻をきたし、統治機構が制御不能に陥っていました。国の財政からみれば、西郷隆盛や坂本龍馬らがいなくても新しい時代はやってきたのでは・・・。こう書くと歴史好きの人達からお叱りを受けるかもしれませんが・・・。そもそも武士という冠婚葬祭・年中行事や付け届け文化など、「建前」と「形式」を重んじ、消費が家計の過半を占める階級を、他の国民が食べさせるという構造では、長期的に財源がもたないのは明白です。

そんな組織形態が260年も続いたのは逆に不思議でもありますが、会社に置き換えてみれば、明治維新は自己破産した徳川一族が退陣し、新政府という新しい経営陣が会社再建を託されたということです。全国諸藩も、産業振興に成功した数少ない藩を除けば借金まみれ。中央政府である徳川幕府の財政は更に厳しい状況になります。幕府に打開策はあるはずもなく、自ら破産宣告して唯一の資産である江戸城を明け渡しました。歴史の教科書には「無血開城」と書かれていますが、要は破産して没収されたようなモノです。明治維新は武力を使った内乱によって勝ち取られたのも事実ですが、別の側面で見ると会社更生法を適用された企業と同じ状況だったのです。従って「瓦解」といわれたのも納得がいきます。

「明治維新」という側面から見れば、志士たち全員が一致団結して目標に向かい、「志」を成し得ました。一方で、組織の経済状況が、その「志」に負けたともいえます。経済抜きに会社の発展はありえません。そして、「志」無しに目標の達成はありえないのです。人をキーワードに展開する企業は、働く人の人生そのものに影響を与えます。雇用の創造は、社会の安定につながる重要な仕事であると考えています。しっかりとした経済基盤の元、「情熱」と「志」を持って無限の力を発揮する組織でありたいと思います。

日本リック株式会社
代表取締役 日高一隆

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